ハイドロリリースの応用②:肩の痛みに効くハイドロリリースに関するQ&A
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1. 肩の痛みにハイドロリリースが効くのですか?
肩の痛みの原因は多岐にわたります。外傷による肩関節の脱臼や骨折、頚椎のヘルニアなどはハイドロリリースだけで治療するのは難しいですが、以下の場合にはハイドロリリースの手法が効果的です。例えば腱板の障害(腱板断裂、腱板炎、石灰沈着など)、腱板を保護する滑液包の障害(肩峰下滑液包炎や烏口下滑液包炎)、関節包の障害、関節の障害(骨や軟骨の変形)、腱板に続く筋肉のつっぱりなどが挙げられます。
肩の構造は複雑なので痛みの原因に合わせて注射部位を選択する必要があります。エコーを用いない従来の方法(ランドマーク法)よりもエコーを用いた正確な注射(ハイドロリリース)は正確な診断の強い味方になります。エコーを見ながら注射を行うと、薬液がどのように広がっていくかタイムリーに分かり効果を予想できます。また、エコーで目的部位に正確に注射をしても効果が無かった場合、診断の誤りであったと分かり、「次は別の部位の治療をしましょう。」と、原因を追究する手掛かりになります。このように、ハイドロリリースの手法は、一筋縄ではいかない肩の痛みの治療に威力を発揮します。肩のハイドロリリースには生理食塩水やヒアルロン酸、局所麻酔薬などを用います。 -
2. 肘を伸ばして腕を横から上げていくと(外転)肩の前と外側に痛みが出ます。何が考えられますか?
腱板損傷や腱板の表面に水腫を認める場合は肩峰下滑液包とよばれる部位に注射をします。エコーを見ながら滑液包内に針先を進めて注射をします。肩関節の変形や拘縮を認める場合はエコーで見ながら針先を関節の入口まで進めて注射をします。1回の注射で解決するのは難しいですが、注射、内服薬、ストレッチやリハビリなどと組み合わせながら治療を行います。若い方で腱板断裂が疑われる場合は手術を視野に肩専門の施設に紹介させていただいています。
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3. 肩の前面と力こぶ(上腕二頭筋)の部位が痛みます。何が考えられますか?
エコーで上腕二頭筋の腱板付着部に水腫を認める場合、上腕二頭筋長頭腱炎の可能性があります。エコーで見ながら腱硝内に針を進め、ステロイドなどを注射します。
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4. 肩を動かすと肩の後ろ側が痛みます。ハイドロリリースは効きますか?
肩関節の裏側の筋肉や腱のつっぱりがある場合に上腕三頭筋と小円筋の間をハイドロリリースすると肩の動きがスムーズになります。この方法で腋窩神経の絞扼も同時に解除する事ができ、肩の外側の痛みの緩和にも効果的です。肩甲骨の動きが悪いときは肩甲挙筋や菱形筋のハイドロリリースを行います。
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5. 結帯動作(帯を後ろ手に結ぶ動作)で肩が痛みます。ハイドロリリースは効きますか?
結帯動作で肩の前側に痛みがあり、エコーで烏口上腕靱帯のつっぱりが疑われる場合はここをハイドロリリースします。結帯動作や水平屈曲(反対側の肩を抱く動作)で肩の後ろに痛みがある場合は棘下筋をハイドロリリースします。
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6. とにかく肩が痛くて眠れないくらい辛いです。どうにかしてください。
炎症による痛みには関節注射、消炎鎮痛薬の内服などの効果が期待できます。また、肩を支配する末梢神経のブロック(肩甲上神経ブロック、肩甲背神経ブロック、腋窩神経ブロック、腕神経叢ブロック)なども即時的な効果が期待できます。当院では、これらの末梢神経ブロックはエコーガイド下に行います。慢性化した肩の痛みには、痛みの感じ方をリセットする効果がある抗うつ薬を処方したり、回復を即す効果のある星状神経節ブロックを行ったりする場合があります(もちろんエコーガイド下に行います)。肩の痛みをそのままにしておくと肩関節拘縮に移行する場合があります。そうなると、治療に数年を要する場合があります。肩の痛みが辛い時は早めに医療機関を受診される事をお勧めします。
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7. 色々な施設を受診しましたが肩の痛みが持続します。何とかなりませんか?
なかなか治らない肩の痛みで日常生活が制限され、気持ちまで落ち込んでしまう患者さんが多くおられます。私達は、そんな患者さまの痛みをどうにかして和らげるお手伝いをしたいと考えています。すべての患者さんの痛みを1回の注射でゼロにするのは難しいですが、「症状を聞く」⇒「診断をする」⇒「注射をする」⇒「効果を見る」⇒「診断が間違っていれば修正をする」⇒「注射する」というサイクルで真実(正しい診断)に近づく努力を心がけています。再診の患者さんには、前回の注射の効果をお聞きします。効果が無ければ遠慮なく効かなかったと伝えていただけるとありがたいです。次の治療方針に繋げていきます。
エコーを用いる事で肩の痛みの治療の選択肢が広がっていて、運動器エコーの勉強会に出席して熱心な先生方のお話しを聞く度に「そんな方法があるんだ!」と驚きます。患者さんに安全で効果的な治療を提供できるよう、これからも精進していきたいと思います。